花輪理事長の独り言
救急医療に対する今後の当院の方針
地域医療計画の中で、当院の方針は大きな進路変更はしないこととしました。ただ、救急診療については、来年度(平成30年度)より段階的に縮小させて頂きたいと考えています。
当院は昭和40年に救急告示医療機関となってより、昭和51年の二次救急夜間輪番システムにも最初から参加し、半世紀以上にわたり救急医療に携わってきました。もっとも、明治20年の秩父病院創立以来、普通の診療として当たり前のように救急医療を行っていたようです。私が秩父の医療に初めて関わった昭和48年ころには救命救急センターもなく、高次医療機関への円滑な搬送体制も確立していませんでした。その頃は地域の医療機関や医師同士が助け合いながら地域で完結すべく、懸命に努力していましたし、最近までそのように頑張ってきたつもりでいます。時代とともに医療は急速に進歩し、より専門化、高度化しています。これに伴い、患者や家族もより専門的で高度の医療を求めています。何より私自身も、患者にとって最良の医療を受けてもらいたいと痛切に思うのです。しかし残念ながら、現在に至っても、脳卒中や心筋梗塞等は対処できない状況は変わっていません。むしろ医療全般にわたり、地域内での治療可能な症例は少なくなっている、つまり秩父地域の医療は中央の進歩に対し遅れを取っていると言っても過言ではありません。個々の医師の能力についても、専門志向の医学教育の結果、守備範囲は縮小し、専門特化の傾向にあります。これは決して悪いことではなく、チーム医療が可能な状況であれば、より好ましいことであります。しかし、当地の救急医療の現状を振り返る時、時代とともに多くのジレンマを感じて来ました。6年前にヘリポートの併設を求めて、この地に移転したのも、心の叫びのようなものが起爆剤になったと思っています。
一方で、今は医療圏を超えた救急搬送体制も整い、救急救命士も充実し、救急現場でのトリアージ(現場での救急隊員による管外搬送の決定やドクターヘリの要請)も数多く行われるようになっています。
実際の夜間救急では、入院や緊急処置の必要のない軽症の患者が大半をしめます。当院の統計では夜間救急当番での入院数は、多少のバラツキはありますが、平均は2人弱と少数です。しかし、もちろん重症例もあり、対処不能例な場合は、転院搬送が必要となります。この転院搬送と入院や救急処置の必要な患者さんの対処に全エネルギーをつぎ込まなければなりませんが、これは本当に大変なことなのです。
一次救急という言葉がありますが、救急に一次なんてあるのでしょうか。軽症例(一次)は診療時間内に来てもらえば済むことであります。二次救急の現場にそんな余裕はありません。当地域には最も多い時で、二次救急病院が7病院ありましたが、今は様々な理由で撤退して3病院となりました。当院では原則一人の医師が夜間救急を担っています。来る患者はほとんどが担当医にとって専門外の患者であります。私自身も可能な限り自宅待機態勢を取り続けてきました。これを何年間続けて来たでしょう。私はこのことを誇りと思い、救急病院の使命とも思い「患者は絶対断らない」をモットーに自身にも当直医にもその覚悟を強いてきました。そろそろ、この理不尽ともいえる体制は段階的に私の代で終わりにしようと思っています。ただし、可能な限り、平日の昼間・診療時間内の救急患者受け入れは、引き続き救急告示病院としての責務を果して行ってもらいたいとも思っています。
今、私は秩父地域の救急医療の現状を冷静に判断し、自分の考えをリセットしようと思っています。仮に当院が二次救急を完全に辞退したとしても、より広域的な救急医療体制が確立している今、大きな混乱は起こらないでしょう。
得意分野に集中し、守備範囲外はより迅速に、より広域的に紹介・搬送する。これが患者にとって最も益のあることと思うのです。救急医療で大事なことは無理な地域完結でなく、適格なトリアージであると思うことにしました。地域完結を夢見てきましたが、今は無力感と脱力感、諦めの境地の中で、これが45年間、秩父の救急医療に関わって来て到達した、現時点での私の正直な気持ちです。
秩父の救急医療における公的病院の役割
救急医療は社会保障と言う観点から、自治体の主導の基、豊富な人材と財源を投入し、自治体病院がより多くの責務を負って行くべきと考えます。「専門分野の拡大と適格なトリアージ」これが市民のとって最も有益、かつ望むところであろうと考えます。このことに税金が使われても、市民の誰しもが納得するでありましょう。現状のような一般会計よりの繰り入れも当然と思われます。
地域医療の中での当院の役割
公的財源のない民間病院としての当院の役割を考えると、得意な分野を伸ばすことに専念して行くことが、一番の地域医療貢献であると考えています。
それは、消化器疾患の診断と治療、歯科の充実であります。さらに、疾患予防と早期診断、内視鏡治療と鏡視下を含む手術の充実と考えています。特化した分野では地域完結を目指したいと考えています。
この目標に向かって、2016年度は設備投資と人材補強を行いました。
医療機器では麻酔器、無影灯、人工呼吸器、除細動器、上部・下部消化器内視鏡、手術室・内視鏡室に固定モニター、歯科診療台、ポータブル歯科診療器等の整備。
同時に複数の検査が出来るように、施設改装と人員配置・内視鏡室のセンター化が進行中です。
また、昨年度に引き続き、今年度も当院の臨床研究として、病院負担での胃癌・大腸癌に対するABC検診と便潜血検査を続ける予定です。
これらにより、具体的には、消化器癌の早期発見と内視鏡手術を含む根治治療が増えることを期待しています。「秩父地域から進行がんをなくそう」は夢のまた夢ではありますが、少しでもその夢に近付きたいと願っています。
歯科の分野では、小児を含む全身麻酔科での口腔外科が可能となりました。また、病院歯科として、内科的疾患を合併した患者さんの治療も可能であります。