花輪理事長の独り言
【埼玉】「埼玉県の地域医療を守る会」設立、奨学金返済免除病院の民間病院追加を提言‐花輪峰夫・秩父病院理事長に聞く◆Vol.1
県内の医師不足地域で勤務する医師を中心に結成された「埼玉県の地域医療を守る会」が2022年11月、医師育成奨学金の免除指定病院に民間医療機関を追加することを求めて大野元裕県知事に要望書を提出した。同会の取り組みや発足の背景について、代表を務める花輪峰夫氏(秩父病院理事長)に話を聞いた。(2023年1月19日オンラインインタビュー、計3回連載の1回目)
――「埼玉県の地域医療を守る会」を発足するきっかけとなった出来事を教えてください。
埼玉県には、県内出身の医学生や指定大学の医学生を対象に埼玉県医師育成奨学金を貸与する制度があります。同制度では医師国家試験に合格後、通常は9年間、県内で医師不足が顕著だとして定められている特定地域の公的医療機関や特定の診療科(産科、小児科、救命救急センター)で勤務すれば奨学金の返還が免除されます。
なぜ公的医療機関に限定しているのか。疑問に思い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前の2019年、秩父郡市の有識者が集まり定期開催しているちちぶ医療協議会で埼玉県医療人材課の担当者に質問したところ、後日、書面回答が届きました。回答では、同制度の原資が県民の税金で賄われていることや、公的医療機関は地域医療の中核的機能を果たしており、不採算医療を担っていることが理由だと記載されていました。
これには到底、納得できませんでした。民間医療機関であっても不採算医療である救急医療や若手医師の教育、COVID-19の対応など、地域医療の中核的機能を積極的に担っているところは少なくないはずです。医師不足地域の民間医療機関では特に、医師確保が喫緊の課題です。確保できなければ診療科や診療時間の縮小、最悪の場合は閉院という選択を取らざるを得ません。埼玉県は10万人あたりの医師数が全国で最も少なく、県内のおよそ半分の地域で医師が不足していることからも、大きな問題だと感じました。
COVID-19の影響で数年間動きがとれていませんでしたが、2022年6月、県知事に直接掛け合おうと県の保健医療部を訪問しました。要望を伝えるには、医師会など何らかの団体を通す必要があるとの返答があったため、同志を増やすことを決意しました。
若い医師の教育・研修を担っている施設や地域医療に貢献していると自負している施設であれば、要望に賛同してもらえるのではないかと思い、1日あたり約3人、医師不足特定地域で救急医療を担っている民間病院を中心に、およそ10日間で35施設へ電話をしました。結果、全ての施設で賛同を得ています。
丸木雄一埼玉県医師会副会長や県議会議員の先生方にも賛同いただき、同年11月、提言の場にこぎつけることができました。
こうした流れで「埼玉県の地域医療を守る会」を設立しました。2023年3月までは私が暫定的に代表を務め、その後賛同いただいた先生方と相談して、会の正式な名称や代表者を決める予定です。
――具体的にはどのような提言を行ったのでしょうか。
具体的には、民間医療機関であっても、(1)協力型臨床研修病院である(2)日本専門医機構が指定する19領域の学会専門医修練施設の関連病院または協力病院である(3)救急告示病院である(4)一定数以上の分娩実施施設(診療所を含む、知事が指定した施設)である(5)その他、知事が指定した病院である――の5つの要件のうち1つでも満たせば奨学金免除指定病院とすることを要望しています。また、特定地域は将来的に生活圏や医療機能分担を配慮して決めるよう求めました。
奨学金制度の目的は、医師不足地域・診療科の医師を確保することです。公的医療機関と民間医療機関が共に地域医療を支えていく中で、実態にそぐわない不平等は撤廃してほしいと強く思っています。
――卒業後の勤務が公的医療機関に限られることは、民間医療機関の経営としての問題だけでなく、現場の医師にとっても弊害となりそうです。
埼玉県以外では、原則公的医療機関としつつ特例を設けて民間医療機関での勤務を認めている都道府県もあります。若い医師の成長を考える上でも、選択肢を広げるべきでしょう。
また、奨学金の返済が免除された後も地域に定着してもらうためには、若い医師のモチベーションを保つことが大切です。専門医取得が可能な環境や指導体制の整備が求められます。
――守る会の会員の内訳を教えてください。
賛同いただいた医師からの紹介などもあり、現在は46の医療機関が会員となりました。内訳は、特定地域のうち熊谷・深谷・寄居地域から11施設、行田・加須・羽生地域から3施設、秩父・小鹿野・皆野・長瀞・横瀬地域から7施設、東松山・嵐山・小川・川島・滑川地域から5施設、本庄・美里・上川・上里地域から9施設、久喜・蓮田、・幸手・白岡・宮代・杉戸地域から3施設。そのほか特定地域以外で8施設です。産科医院や療養型病院も一部含まれています。
県知事への提言という第一の目的は達成しており、会員増に向けて積極的な取り組みを継続しているわけではありませんが、仲間を増やしていけるよう呼びかけを行っています。
――現在はどのような活動をしていますか。
2022年12月には自民党県議団にも要望書を提出しました。啓発を目的として、Facebookや秩父病院のWebサイトに設置しているブログでも情報発信しています。
県議会の議題に上げてもらうために、やれることはやったつもりです。しばらくは経過を待ちたいと思います。埼玉県医師育成奨学金制度で公的医療機関と民間医療機関に不平等が設けられている問題が審議され、条例の改正に結びつくことを願っています。
公的医療機関と民間医療機関の不平等は、埼玉県のみの問題ではありません。自治医科大学では授業料返済免除の条件として、義務年限の期間、出身都道府県の知事が指定する医師不足地域などの医療機関で勤務することが求められていますが、対象の医療機関は公的医療機関に限定しています。
現在は県内の奨学金制度の変更を求めて会の名称を「埼玉県の地域医療を守る会」としていますが、全国の地域医療を守るために活動していきたいですね。県知事への要望より時間も労力もかかると覚悟していますが、いずれ何らかの機会を設けて、厚生労働省にも要望を提出したいと考えています。