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埼玉県外科医会誌に下記タイトルを投稿しました
埼玉県外科医会誌に下記タイトルを投稿しました
地域医療を支えるための当院の取り組み
多少おこがましいタイトルではあるが、『地域の患者さんが地域で十分な医療を受けられること』が私の願いである。残念ながら、いまだこの達成には程遠い状況ではあり、今後も見果てぬ夢となりそうであるが、少なくともこれらを意識し40年以上地域医療に没頭してきた。心筋梗塞や脳卒中は別として、消化器疾患の分野においては、多少とも地域外科医療を支えるための役割を果たしてきたと自負している。
来年の第114回日本外科学会定期学術集会のメインテーマは『地域医療と高度医療の連携』とのことで、当院は、地域医療関連セッション2 『地域外科医療を支えるための工夫』(公募・一部指定)に『地域外科医療を支えるための当院の取り組み』と言う演題を応募した。公募の趣旨は以下のようなものである。
(近年、一般外科医の減少が指摘され、特に地域医療崩壊が叫ばれる厳しい状況のなか、地方においても中央と遜色のない再先端の医療レベルを確保し、維持するために、様々な工夫が行われています。学生や若手医師の視線で魅力的な地域外科医療とは? 少ないスタッフで地域格差をなくすには? 手術症例の集約化は是か非か? 大学病院とは異なる、地域外科医医療を支えるための戦略と工夫を広く募集します)
当院の演題抄録の要旨を紹介する。
(近年の医学の進歩は著しく、より特化した知識と技術を備えた専門医が重要視されてきた。しかし、一方で、より広い領域に対処できる総合医の必要性も叫ばれている。当地域には大学病院のような全ての専門科がそろった総合病院はないが、地理的にも、生活・文化圏的にみても、可能な限り自院、あるいは地域内で対応する必要がある。高齢化は深刻であり、総合的診療能力と包括ケアのマネイジメント能力を持った臨床医の必要性も迫られている。このことは同時に、当地域がこのような臨床医の育成に適しているとも言える。地域外科医療を支えるためには、まず医師の確保である。当院で研修した初期研修医に行った今後の研修病院を選ぶ根拠に関するアンケートでは、第1に指導医がいること、以下、各種専門医の受験資格が取れること、症例数が多いこと、医療の進歩に遅れないこと等であった。これらを踏まえ、若い医師達に選ばれる病院を目指し、各種専門医取得を視野に入れた後期研修プログラムを作成した。昨秋にはプライマリ・ケア連合学会認定後期研修プログラムも認可された。中央と遜色のない医療レベルの確保のため、大学との人事交流を積極的に行うことも重視している。地域医療機関と高度医療機関、お互いが習得不可能な分野を補填し合う連携が必要である。当院では、いわゆるアッペ・ヘモ・ヘルニアや、穿孔等の緊急手術、消化器癌開腹手術等を若い外科医に経験してもらうと同時に、高度医療機関で行っている腹腔鏡手術等も積極的に取り入れている。また、開放病床の提供とオープンシステムを実践し、地域診療所の整形外科、脳外科等の専門医の協力を得て、教育および地域の医療レベルの確保に努めている)
外科に限らず、地域医療を支えるためにもっとも重要なことは医師と医療の質の確保であると承知している。このために、私どもに出来うる具体的な方法を整理してみた。外科医会誌で紹介させていただき、果たして日本外科学会に採用されるか分からないが、これらを基本として発表演題を完成させて行きたいと思う。
1、 医師の確保 : 若い医師達から選ばれる病院となるために
① 各種専門医取得を視野に入れた後期研修プログラムの作成
② 先進医療への取り組み (腹腔鏡下手術、内視鏡手技等)
③ 一般外科医として多くの症例を研鑽できることをアピール
④ 初期研修医の積極的受け入れと指導。(現在、埼玉医大・日本医大系列7病院の研修協力施設となっている) 研修医の積極的な学会発表の実践
⑤ 大学病院よりの若手医師の派遣要請と派遣医師への指導
⑥ 子育て中の女性医師の受け入れとブランクのある医師への支援、雇用
⑦ 専門医、指導医の招聘、雇用
⑧ 地元出身医師の積極的招聘、雇用
⑨ 広報活動 広報誌(ちちぶ病院だより)・ホームページの作成
2、 医療レベルの確保
① 大学との人事交流(大学の専門医による専門外来の開設・腫瘍内科、乳腺外科、形成外科等。大学指導医による当院への出張指導等)
② 開放病床とオープンシステムの実践(地域診療所の整形外科・脳外科等の専門医による手術等)
③ 医療の進歩に遅れないための技術、手術の導入
(1985年低位前方切除術、1990年胃切除後再建に器械吻合導入。1992年腹腔鏡下胆のう切除術。今年より腹腔鏡下胃切除術、早期胃がんに対するESDを開始)
④ 常勤外科医のレベルアップ(専門医取得・学会活動を含む)
⑤ 個々の医師の守備範囲の拡大(一般外科医あるいは総合外科医としての研鑽)
⑥ 地域診療所専門医による各専門外来診療
⑦ 月1回の医師会症例検討会への積極的参加
⑧ 学会への積極的参加・論文発表等の学会活動
⑨ 月1回開催の医師会外科医会での勉強会・講演会での研鑽
⑩ 地域他病院外科医師への手術指導(院内および出張指導)
⑪ 出来うる限りの学会認定修練施設の取得(日本外科学会・日本消化器外科学会・日本消化器内視鏡学会・日本プライマリ・ケア連合学会等)
以上を分析すると「医師の養成・確保」「学会発表、地域症例検討会を初めとする学術活動」「新しい医療の導入」「医療連携」が地域医療を支える基本と考えられる。この内、『医師の養成』につき、私の考えを独断と偏見は承知の上で述べたいと思う。
『地域に役に立つ医師、求められる医師の育成』が最近の私の夢である。
最近、特に力を入れていることに初期研修医の教育がある。現在埼玉医科大学系列および日本医科大学系列の計7病院より2年目の初期研修医が当院に地域医療研修に来ている。この1年間の当院からの研修医の学会発表は5回を数えた。彼らがいると私のみならず病院スタッフ全体が活性化されると同時に、彼らに何かを伝えたいと思いが募るのである。これは、単に年寄医者のエゴばかりではない。地域医療の現場から眺める最近の医療の現状が、あまりにも偏った歪な型となってしまっており、何かを言わなければ、何かを伝えなければ大変なことになるという焦燥から来るものと感じている。地域医療の現場でこそ伝えることができるものがある。また、彼らから教わるもの、彼らとの触れ合いで気づかされることも数多くある。
専門バカでなく、視野の広い医者・総合医を地域で育てたいと思う。
一口に総合医といっても様々な言い方、捉え方がある。家庭医、プライマリ・ケア医、救急医、総合診療医、総合内科医等である。私は総合医というからには、内科・外科系に限るものではなく、急性・慢性、あるいは初期医療やトリアージに限定すべきものとは思わない。厚労省は専門医制度改革に着手している。数年後には基本領域に内科、外科等と並列して『総合診療科』が加わるという。この総合診療科の目指すところ、すなわち国が養成しようとしている総合医は、在宅医療を担うための専門医と思われる。病院から在宅へ、治す医療から支える医療へ、地域で、多職種で患者と家族を支える包括ケア。そのリーダーシップをとる医者、マネイジメントの出来る医師の養成である。確かに必要なことと思うが、私には今一つピンとこない。
私の考えている総合医のイメージはかなり違う。簡単に言えば、『その地域に役に立つ医者』のことである。離島ならば、あのコトー先生が理想であり、秩父ならば、逆説的だが、専門バカでない医者であろう。私は当院に研修にくる初期研修医達にいつもこう言っている。彼らの多くはまだ何科に進むか決めてない者も多い。だから「まず、内科認定医か外科専門医を取ること。出来ればその両方。それから各専門医の道を進めば良い。時間はたっぷりあるよ。だって医者は一生の仕事だから」しかし、いまだ外科と内科の両方を目指すという私のアドバイスを実行した人はいないようである。若い時は気がはやるし、性格の向き不向きがあるから仕方がない。自分も早く一人前になりたいと思ったので、卒業後すぐに外科に入局したので気持は良くわかる。だからこれは医者を四十年余りやって来たからこそ思う、臨床医の一つの理想像と思っている。ただ、私の思い描く総合医とはそんなに難しいものではなく、もっとシンプル、昔ながらの『お医者さん』の姿である。頭痛は脳外科・神経内科、肺炎は呼吸器、高血圧は循環器、外科にしても総て臓器別各科へ紹介。子供のヘルニアやアッペは小児外科がやるべきもの、あげくは大学病院でさえ麻酔医がいなくて手術が出来ない、小児外科医がいなくなったから、子供のアッペやヘルニアが出来ないとなる。なんでこんなに面倒くさくなったのだろう。私の言うことは間違っているのであろうか。古いのであろうか。なるほど、私は今になって親父の背中を追いかけているのかも知れない。
平成26年3月8日 埼玉県外科医会学術講演会が開催される。秩父外科医会が担当であり、テーマを『地域医療における外科医と総合医』とした。日本外科学会のメインテーマも『地域医療と高度医療の連携』であり、日本外科学会が地域医療に目を向けてくれたことは、地域医療に従事している者として喜ばしいことである。できれば、単に紹介・逆紹介等の連携に留まらず様々な問題についての議論を期待したい。例えば、厚生労働省の医療費削減路線である効率化、役割分担という体の好い言葉に隠れ、彼らの言う医療供給体制の見直しに内蔵されている、地方医療切り捨てについて。あるいは私には学会の権威主義の表れでもあると思われる手術や高度医療の集約化等、その是非を真剣に議論する場となれば有り難いと思っている。地域医療と高度医療・日本の医療の正しい在り方、さらには専門医と総合医について、喫緊に議論、検討すべきというメッセージと捉えたいと思う。
過日、私は来年春の日本外科学会定期学術集会会頭の上本伸二先生に手紙をかいた。その理由は、現在検討されている新専門医制度のなかで、新たに基本領域として新設されるであろう、総合診療科(仮称)についてお願いしたいことがあったからである。総合医あるいは総合診療専門医がどういう医師像であるべきかは、多くの見解があり、今後十分な議論がなされるべきと思われるが、この研修プログラムの内容は内科、小児科、救急が必須であり、外科が必須となっていないことに違和感を持った。そこで、私は内科と同程度に一般外科の基礎があってこその総合医であると思うという私の考えを会頭にお伝えし、ご理解を賜りたく思った。そして日本外科学会がプログラムの作成に関与して頂きたいとお願いしたのである。光栄にも上本先生より、ご理解と前向な返信を頂いた。光栄に思っている。
私は医療が抱える臨床、教育、研究分野の中で、人を癒すという大きな意味において、地域の臨床医療が大学病院等の医療に必ずしも劣っているとは思っていない。また若い医師の教育や自己研鑽においても同様である。もちろんどちらが良いと競うべきものではないが、若い医師が成熟していく上で、地域医療の現場でこそ磨ける分野は大きく、地域医療と高度医療の現場がお互いを補填し合うべきものと考えている。
また、特殊な高度医療を除き、急速な医療の進歩の恩恵は特定の医療機関や地域、あるいは選ばれた患者のみが受けるべきではない。日本の医療全体の底上げこそ必要であり、患者および家族の立場に立った全人的、社会的、文化的な要素をも含有した医療がなされるべきである。さらに極端な専門志向の反省、あるいは総合医や一般外科医についての活発な議論が行われることを期待したい。
| 更新時間 : 2013年11月28日 14:17